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長野地方裁判所 昭和53年(ワ)263号 判決 1981年5月20日

原告 清水好己

右訴訟代理人弁護士 松本信一

被告 太田源次郎

右訴訟代理人弁護士 武田芳彦

右同 木下哲雄

主文

一  被告は、別紙物件目録記載の土地につき、原告に所有権を移転するため長野県知事に対し農地法五条一項三号の届出をせよ。

二  右届出が受理されたときは、被告は原告に対し、別紙物件目録記載の土地につき売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は、被告から昭和四〇年八月一二日、別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という)を左の約定で買い受けた。

1 売買代金   金三三万円

2 手付金    金一三万円

3 残代金は同年九月三〇日に全額支払う。

(二)  原告は、被告に対し、

昭和四〇年八月一二日 一三万円

同年九月中旬ころ   二〇万円

を支払った。

(三)  本件土地は農地であったので、原告は被告から農地法五条の許可申請に必要な書類をうけとったが、住宅建築計画が定まらなかったので許可申請を為さないでいたところ、昭和四六年一月二八日、本件土地は市街化区域に指定され、許可制から届出制に変った。

そこで、原告は、被告に対し届出に必要な書類に署名押印してくれるよう求めたが、被告はこれに応じない。

(四)  よって、原告は、被告に対し、本件土地につき農地法五条一項三号の届出と所有権移転登記手続を為すことを求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)は否認する。

(二)  同(二)も否認する。

(三)  同(三)の事実のうち、本件土地が市街化区域に指定され、許可制から届出制に変ったこと、原告から届出に必要な書類に署名押印を求められた事実は認めるが、その余は否認する。

三  抗弁

仮りに、原告主張どおり、原告が被告から昭和四〇年八月一二日本件農地を買い受けたとしても、

1  原告の被告に対する農地法五条の許可申請もしくは届出手続請求権は、昭和五〇年八月一二日をもって時効により消滅した。

2  被告は右時効を援用する。

四  抗弁に対する答弁

抗弁は争う。

届出協力義務の消滅時効の起算点は、本件土地が市街化区域に指定された時であるから時効は完成していない。

五  再抗弁

原告は、すでに、被告の懇請により本件農地の代金を完済しかつ農地法五条の許可申請書にも署名押印しており、又昭和五〇年四月ころ、被告に対し届出協力を求めたところ、若い者に任せてあるからとのことであった。

しかし、被告の子は、言を左右にして届出に協力せず今日に至った。右の事情がある場合、被告の届出協力義務の消滅時効援用は信義則に反し権利の濫用に当たる。

六  再抗弁に対する答弁

再抗弁は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によると、請求原因(一)、(二)、(三)の各事実を認めることができる。《証拠判断省略》

二  そこで、時効の抗弁について判断する。前示のとおり、本件土地が昭和四六年一月二八日市街化区域に指定されたことにより、農地法五条一項による許可は不要となり、同項三号による届出をすればよいことになった。しかし、右届出が受理されないかぎり、依然として農地所有権移転の効力が生じない点において、右届出は許可の場合と同じく右移転の効力発生につき法定条件を構成するものであり、右届出が当事者双方の協力によって行われるべきところから、農地の譲受人は譲渡人に対して届出協力請求権を有することとなり、右請求権は許可申請協力請求権と同じく、その権利行使可能のときから一〇年の経過により、時効により消滅するものと解される。

ところで、右届出協力請求権は、一般に農地所有権の移転契約を締結したときに発生し、行使可能となるが、本件では、契約締結当時には県知事の許可を要したところから、前示のとおり、被告において許可申請協力義務の履行として、許可申請書に署名捺印して原告に交付して置いたというのであるから、原告はいつでも右申請書を県知事に提出して許可を得ることができる地位にあったわけであり、右届出協力請求権は、本件土地が市街化区域に指定されたときに始めて発生し、かつこれを行使しうる状態になったものと解される。もっとも、右許可申請と届出の各協力請求権は、ともに農地所有権移転の法定条件を成就させることを目的とする点で、共通性があり、たとえ許可制から届出制への移行があったとしても、両者の実質的同一性に着眼するならば、時効期間を通算しうるのではないかという疑問が残る。しかし、届出には許可におけるような裁量的な判断は許されず、届出があれば届出の要件が具備しているかぎり、必ず受理されるという点で、法定条件とはいえ、その不確定要素は全くなくなり、両者の間にかなりの異質性が見られるのであり、許可申請と届出との各協力請求権を共通なものとして、その時効期間を通算することは困難であるとみざるをえない。そうすると、本件における届出協力請求権における時効の起算点は、市街化区域に指定された日である昭和四六年一月二八日であると解すべきであり、従って、右請求権はいまだ時効が完成していないものといわざるをえず、被告の時効の抗弁は採用できないことになる。

三  よって、原告の本訴請求は相当であるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 安田実)

<以下省略>

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